ちょっと一服


   鳩子と鳩吉の子育て日記 

8月のおわり 夏の名残りの昼下がり、まだ幼鳥と思われる二羽の鳩のカップルが、我が家のバルコニーの軒先3メートルほどの山茶花の木にやって来て、雄と思われる1羽がせっせと小枝を運んでいる。

葉陰には雌と思われる1羽がその小枝を受け取っているが、みな下に落として1週間経っても10日経っても、巣の形にはならない。

見るに見かねて、手伝ってやることにした。最初は落ちた小枝を枝間に組み合わせて巣を作ろうとしたが巧く出来ない。
裏庭の笹の軸を、粗いざるのように丸く編んで、くだんの枝間に乗せてやった。

 まあ聞いてやってよ、うちの亭主ときたら、新婚早々だと言うのに何処へ行ってしまったのかアタシが、来る日も来る日も飲まず食わずで、二つの卵を抱いているというのに一度も帰って来ないのよ!。
 今日で何日になるのか、アタシの記憶ではもう10日位卵を抱いているように思えるが・・・いったい後どのくらい抱けばヒナが孵るのか、なにせ初めての経験なんでさっぱり判らない。
 腹はペコペコだし、うとうとすれば不出来な巣から落っこちそうになる。こんなことなら結婚するんではなかった。この間の台風21号の時なんぞは、雨と風でずぶ濡れになり、巣から振り落とされそうになりながら必死で卵を守ってきたのよ。
 鳥の夫婦は一度結婚したら死ぬまで別れないと言うのに・・・薄情なもんだね、これでは向かいの人間夫婦の方がよっぽどましだわ。
 
 何時の間にか向かいの旦那が、アタシの名前をー鳩子ー、亭主の名前をー鳩吉ーと勝手につけてバルコニーに出て気安く呼んでくれている。
 アタシも毎日、暇なものだから向かいの夫婦の生活ぶりを観察することにした。
 あの夫婦はいったい何をしているんだろうか、よその男達は毎朝8時頃、黒のスーツにネクタイを付け、鞄を持って、いそいそと出かけて行くのに・・・。
 
 でも向かいの旦那はなかなか良い処がある。不器用な鳩吉とアタシではいくら努力しても卵を産めるような巣が出来なかったのに・・・。 お腹の卵は日に日に大きくなるのに、鳩吉は暢気なもので役にたたない枯れ枝ばかりを拾って来る。 
 もうお腹がはちきれそうだ!アタシはあせったね、何処か他の木を探そうと嫌がる鳩吉をつれて出かけたが適当な木が見つからない。
 
 三日位探した挙句、また戻ってきたらなんとお世辞にも立派とは言えないが、ちょっと手(口ばし)を入れれば卵を産めそうな巣が出来ていた。
 この際、贅沢は言えない・・・向かいの旦那の好意に甘えることにしよう。
 旦那が作ってくれた、ザルのような土台に柔らかい苔やら枯れ草を敷いて、座ったとたんに続けさまに二つの卵が飛び出してきた、アタシしゃ嬉しかったね・・・ところが鳩吉の奴、男の面子を潰されたとでも思ったのかプイと出て行ったまま、いまだに帰って来ないんだよ。
 
 どうやら向かいの旦那は何もすることがないようだ。週に1〜2回リュックを担いで、朝早く出て夕方疲れきった様子で帰ってくる。いったい何処へ行ってくるのだろう?  たまに細君と一緒の時もある。
 アタシの家からは、バルコニーを通して人間夫婦のダイニングが丸見えである。何時も暑いのかガラス戸を開けているので話し声もよく聞こえる。 人間はあの年になれば仕事をしなくてもよいのだろうか。
 他の男達がスーツを着て出かけても、旦那はまだ眠っているようだ。起きてくると細君が造った朝食を新聞を見ながらむしゃむしゃと喰っている。
 
 アタシ達夫婦の名前を勝手に付けてくれたので、向かいの夫婦にも名前を付けてやりたいが、人間の名前はどう付けたらよいのやら見当もつかない。そうこうしているうちに、細君が旦那のことをパパと呼んでいるのが聞こえた。旦那は細君のことをママと呼んでいる、いい年をして恥ずかしくないのだろうか、アタシも以後パパ・ママと呼ぶことにした。
 
 ママーー「鳩子はもう何日も餌を食べていないけど大丈夫かなあ、パンなら食べるかしら」
 パパーー「少し千切ってもって行ってやったら」
 暫くするとママがアタシの家の下にやって来て、パンを小さく千切ってパラパラと置いていった。
 アタシもパンは大好物、結婚する前はいつも夙川公園で、人間達がパンやらポップコーンを食べさせてくれた。夙川公園へ早く帰りたい! 何でこんな所に巣を造る羽目になったのか、それもこれも鳩吉に騙されたアタシが悪いのだと諦めるよりしかたがない。あの頃の鳩吉は男前でやさしく、この“シト”と一緒になり可愛い子供を造ってバラ色の人生(鳩生)が送れると思っていた。恋は盲目とは人間はよく言ったものだ。
 持って来てくれたパンを食べたいのだが、今は巣を離れるわけにはゆかない。 アタシの卵を狙っているヒヨドリがさっきから頭の上をうろついている。
 掃除のおっちゃんが、箒と塵取りを持ってやって来たので、ヒヨドリは何処かへ飛んでいった。さあ食べようと思ったら、おっちゃんが「なんでこんな所にパンがあるのだ」とぶつぶつ言いながら、さっさと片付けてしまった。
 
 パパとママは、夕食を終えると毎日二人で出かけていく。ママが体重を気にして夙川公園から芦屋浜まで散歩に行くのにパパがついて行くようだ。
 もう真っ暗になり、うとうとしていると何時もどおり、汗を拭きながら二人が帰って来た。
 ママーー「なんで今頃、夙川の桜が満開なのかしら、地球が温暖化でおかしくなっちゃったようね」
 パパーー「テレビでもやっていたが、この間の台風21号で葉っぱが落とされた後、暑さがぶり返したので春と間違えて咲き出したんだそうだよ」
 こんな話を聞けば、ますます夙川公園が懐かしくなってきた、早くヒナを孵して帰りたいよお。
 
 パパは遅い朝食を終えると、必ずバルコニーに出てタバコとやらに火をつけて、アタシの方に向けてプカプカと鼻や口から煙を吐き出すのだ。あの臭いと煙たさには何時も閉口する、なんとか止めてくれないものか。
 
 3時頃パパが帰って来た。
 パパーー「中央病院の結果が出たよ、CTの肺の影は昔、知らない間に固まった結核の後だと言っていたが念のため、定期的にCT検査をすることにしたよ。」
 ママーー「この際、タバコを止めたら。良い機会だと思いますよ」
 パパーー「いま頃止めても・・・20年経たないと肺の中は綺麗にならないと言うじゃないか、もう遅いし俺の家系には癌の遺伝子は無い!!」
勝手な屁理屈をいうのはいいが、アタシの人生(鳩生)はこれからだよ。迷惑この上ない全く!。

                                                       つづく


   鳩子の故郷?夙川公園(裏夙川)
 
   台風の影響で狂い咲きした桜(裏拡大)



まさか私が造った巣を使ってくれるとは思ってもみなかった。

でも1羽だけ巣に入ったまま何日も出ようとしないので、様子を見たくなり下からデジカメのズームで覗く。ついでに中を見たくなり、竿の先にカメラを括り付けててリモコンシャターで、めくら撮りする。

さすがにカメラに驚いて、飛び立った。その跡には2個の卵が・・・。

驚かしてごめんね!と心の中で謝ると3分も経たぬ間に帰って来た。

 ほんとに驚いたよ!びっくりして心臓がはちきれそうになったね・・・アタシ 卵を抱いているのも忘れて巣を飛び出してしまった。 あの恐ろしい台風が過た穏やかな日のことである、卵を抱きながらウトウトとしていたら、突然 黒光りした一つ目小僧が目の前ににゅーと現れたではないか、人間の顔なら慣れっこになっているが、あんな不気味なものは生まれて初めて見たよ。
 どうやら、パパがデジカメとやらでアタシの巣と卵を写したようだ。それならそれで初めからそう言ってくれればいいのに。人間にはアタシ達の言葉は判らないだろうが、アタシには良く判るのだ 特にパパとママの言葉は何でも理解できる。巣を造ってもらった恩義はあるが、デジカメの盗み撮りは失礼だよ。
 
 でも いったい何時まで卵を抱いてりゃあいいのか、もうアタシくたびれたよ。人間界ではインターネットやらで何でも調べることが出来ると言うじゃないか、暇そうなパパさんよ調べてくれないか。しかしそんなことを言っても人間にはアタシの言葉が判らない筈だ。
 
 ママーー「鳩子は、何も食べないで後どの位 卵を抱いていたらヒナが孵るのかしら?」
 パパーー「インターネットで調べて見ようか」
 パパーー「インターネットはすごいよ、何でも判っちゃうよ。鳩の生態ーー@生まれて6ヶ月で卵を産む A
1年に5〜6回2個の卵を産む B卵は28日目に孵化する C孵化して1ヶ月で飛び立つ D鳩の平均寿命は8年 Eヒナの食べ物は、母乳と書いてあるよ」
 
 ママーー「なにを馬鹿なことを言ってるのですか、鳥におっぱいはありませんよ」
 パパーー「母乳と言っているのは、親鳥が食べた食物を胃で消化して乳状のものを吐き出してヒナに与えるんだよ」
 ママーー「もし親鳥がその母乳を与えなかったらどうしたらいいかしら」
 パパーー「それも書いてあったよ、ミルクで小麦粉を溶かして、スポイドでヒナの口に入れてやれば良いそうだ。」
 パパーー「鼠算ならぬ、鳩算で計算すれば・・・エクセルで・・・1年で13倍、2年で124倍、3年で815倍(1630羽)、もうこれ以上は、近親結婚の障害が発生し、その係数が無いので計算出来ない」
 パパーー「そうそうこれははっきりとは書いて無かったが、どうも雄は巣が出来て雌が卵を産んだら2度と帰ってこないようだ。 薄情だね、その点人間は立派なもんだ。」

 パパにはアタシの願いが通じたようだ。鳩算などどうでもいいが、肝心なことは後何日くらい抱いておればいいんだ、それが知りたいんだよ! 何時生んだか覚えていないが、もう20日位は経っているような気がする、とすれば後10日位辛抱すればいいのかしら。およその目途がついただけでも有難い。パパさん有難うさんでした。
 ならばもう少しパパとママの観察をするとするか。

                                                   つづく

 10月12日朝、ヒナが1羽孵ったよう
 だ、鳩子の巣の下に長径3.5CM
 ほどの抜け殻が落ちていた


 鳩子はもう1個の卵を抱いているの
 で中を覗くことが出来ない。


 もう1個が孵れば、餌を捕りに出て行
 く筈なので、その時まで待つことにし
 よう。


 今日から28日前9月14日頃に産んだ
 ことになる。


 鳩子おめでとう!頑張ったね。


 夕べから、コツコツと卵を叩く音がしていたと思ったら、今朝1羽のヒナが出てきた。 まだ毛も生えていず
頭ばかりが大きくて、これが我が子かと思うほど醜い姿をしている。
 
 もう1個は何時出てくるのか、早く出てこないとお腹がペコペコで死にそうだよ。産まれてきたヒナはどうやって育てたらいいのかしら・・・パパがインターネットで調べてくれた情報によるとアタシが食べたものを吐き出して与えることになっているが、その前にアタシがお腹いっぱい食べたいよ。

 そうそう、パパとママの観察を忘れていた、もう少し続けることにしよう。人間の世界には、大変悪い奴がいるようだ。
 3日前の夕方、今まで見たこともない男が2人、パパとママが住んでいる部屋の2軒隣の壁をよじ登って2階の部屋のバルコニーに入り、大きなガラスの戸を“ガシャ”と割って入っていった。これはただごとでは無いと直感したね。暫くすると大きな袋を持って、バルコニーからするすると降りてきて何食わぬ顔して出て行った。 空き巣狙いの“泥棒”という人種らしい。盗られたものはと云えば、宝石とパソコンだと云っていたがパソコンが無ければ、インターネットが出来ないそうだ。我等鳩族には宝石もパソコンも必要ないがね。
 
 パパやママの話によるとこの部屋も、去年やられたらしい。その為か夜、バルコニーの外を人が通るたびにピカピカ光ってパッと明るくなる。今はもう慣れたが、初めの頃はその度にびっくりして、神経衰弱になりそうだったよ。2軒隣にはその仕掛けがなかったようだ。
 ヒナが巣立つまでは、なんとか「ピカピカパッ」を止めてもらえないだろうか。パパやママの話によるとなにもそんなものが無くても、もっと強烈な仕掛けがあるそうだが、それが何なのかアタシにも教えてくれない。
 
 一昨日の日曜日、パパは例によって朝早くリュックを担いで出て行った。毎週日曜日には何処かの山へ行っている。毎日が日曜日のようなものなのに、なんで日曜日に出かけるのか、その謎が解けた。
 パパとママの会話を総合すると西宮勤労者山岳会と言う山に登る会があって、その会はまだ働いている人が居て、日曜日しか山に行けないようだ。
 勤労者と言うのは働いている人のことを云うようだが、パパは働いてもいないのに勤労者なのか?

 パパは、山に行かないときは自分の書斎に閉じこもって、いつもパソコンをカチャカチャやっている。何をしているのかここからは見えないが、インターネットのホームページとやらに、山のことを書いたり山や花の写真を載せているらしい。 最近はアタシのことも書いているようだ、あの黒光りした一つ目小僧ーーデジカメーーでアタシの巣をパシャパシャと写している。アタシにだって肖像権があると思うんだが・・・。
 
                                                       つづく


 

昨日、1羽のヒナが孵った後、もう1個の  
卵はどうなったのか。

鳩子はまだ食事に出かけようともしない
1ヶ月も飲まず喰わずでヒナに母乳?が
与えられるのか。

気になってしかたがないので、パンを持っ
て覗きに行く。

鳩子は怖がりもせず、産まれたばかりの
ヒナを見せてくれた。(右下のベージュの塊)

但し、パンには見向きもしなかった。

 ここのところ、お天気つづきで気持ちがいいね、やっと秋本番と云うところか。とは云ってもアタシぁ、春と夏しか経験していないが。傍の金木犀が良い匂いを漂わせている、ママの話だと今年は1ヶ月も遅いのだそうだ。

 親子水入らずで金木犀の香りを楽しんでいたら、パパが例のデジカメとパンを持って、木に登ってきた。
昨日も忠告したが、むやみに写真を撮らないでほしいね。それから、もう1個の卵を抱いているんだからアタシはまだ何も食べないんだよ。
 それにしても亭主の鳩吉は可愛いヒナを見たくないのかねー。普通の夫婦ならせっせと餌を運んできてくれるものだと思うんだが・・・。

 パパーー「ママーママー、ヒナは元気にしているよ」−−−あたりまえだ。
 ママーー「それは良かったですね、でもいったいヒナは何を食べているんでしょうね」

 パパとママは、他人事ながら安心したのか、アタシの方を見ながら香ばしい匂いのするコーフィーとやらを美味そうに飲んでいる。

 「 アアー・イイー 」 ママがいつもの“詩吟”の練習を始めた。本人は外までは聞こえていないと思っているんだろうが、アタシにはうるさくてしかたがない。
 何でも近いうちに、大会があって猛練習をしているようだ。パパはうるさくないのかなぁー・・・。
パパの話によると、これでもママはもう何年もやっていて、相当良いところまでいっているとのことだ。
リビングの書棚には、カップやトロフィーが所狭しとならんでいる。パパのゴルフのそれは隅の方に押しやられて小さくなっている。
 去年は九州の天草で [ 頼 山陽 ] とやら昔の偉い詩人の詩吟全国大会があって,特別賞とやら大きな楯をもらってきたそうな。
 その前は、ニューヨークのカーネギーホールまでうなりに行って、日本文化を広めてきたと内心では、たいそう自慢に思っているようだ。
 
 ママは「アアー・イイー」の後、何処かへ練習に行き、パパは書斎でパソコンをカチャカチャやり始めた。

                                                   つづく


 

                                            
       父 帰る

 10月18日、鳩吉が1ヶ月ぶりに帰ってきた。
 
 もう帰って来ないのかと思っていたら、隣の枝に
 留まって、ヴォーボーと鳴いて鳩子に知らせ巣の
 近くまでやって来た。
 
 鳩子は鳩吉を確認すると一目散に飛び出して
 行った。よほど腹が減っていたのだろう。

 鳩吉は、暫く巣の中の我が子を珍しそうに眺めて
 いたが、おそるおそる巣に入っていった。

 鳩の雄は、ヒナが孵るまでは巣に帰らない習性の
 ようだ。もう1個の卵も無事孵ったのだろうか。

 それにしても、雌は1ヶ月間も飲まず喰わずで
 孵ったヒナに与える餌(母乳?)は何処に蓄えて
 あったのだろうか。
 

 鳩吉さん、貴方のことを疑ったりして御免なさい。もう帰って来ないのかと思って心細くなり、貧しい母子家庭の将来を想像したりして・・・。 
 もう1羽のヒナも生まれて、ヒィーヒィーとお乳をねだっているとき、 ヴォーボー と懐かしい貴方の声がして、アタシは夢かと思いました。アタシの選んだ鳩吉さんは、とってもハンサムで男らしく、首筋の毛並みは世界一立派だと今でも思っています。
 
 鳩吉さんが帰ってきたので、アタシは後を任せてあの懐かしい夙川公園に行き、1ヶ月ぶりにお腹がはちきれるほどパンとポップコーンを頂いてきました。
 
 鳩吉さんに任せたとはいえ、悲しい女のサガ(性)母性本能からヒナが心配になり、すぐに帰って鳩吉さんと交代した。
 やはりヒナの傍が一番心休まるアタシでした。

 
 アッ 危ない、その牌を捨ててはだめですよ!(アタシのとこから丸見えで気が気ではない)
 
 ポン・リーチ!今日は朝から賑やかだ。ママの友達が3人やってきてリビングでマージャンが始まった。
 あれは男のやるものだと思っていたのに・・・。

 何時もはママが長老?の家へ出かけて行って、ポンだのリーチだのとやっているそうだが、今日はパパがリュックを担いで山に行ったので、安心してガシャガシャと牌を掻き混ぜ大声を出している。 
 メンバーは芦屋の長老大福さん・遠路姫路の三角さん・神戸の丸山さん。男は絶対に入れてもらえない。
 
 長老の賭場?は電動式で、ガシャガシャは機械がやってくれるそうだが、この家にはそれを買うお金が無いのか手で掻き混ぜている。

 お昼が過ぎたというのにまだ半チャン2回、賑やかな昼食を挟んでまた始めだした。
 
 3時前、半チャン3回目の南場が始まったばかり、パパが六甲山からいそいそと帰ってきた。白熱を帯びた勝負の真っ只中で誰も気がついていないようだ。

 パパが恨めしそうにリビングに入って、ママの点棒を覗いた時、夢中になっていた4人もやっと気がついたようだ。ママの点棒箱には万点棒が3本も集まっている、よほど憑いているのか。

 南場が終わるのを見計らって、パパが紅茶を入れてきた。勝負が白けてはいけないので、パパは書斎に引っ込んでパソコンをカチャカチャやりだした。

 5時になっても4回目が終わらない。5時半漸く終わったようで電卓で精算をしている
 朝の9時半から延々と8時間、結果は姫路の三角さんがトップで、ママはチャラ、長老と丸山さんがそれぞれ500円の負け、これでは姫路からの電車賃にもならない。

 3人が帰ってやっと静かになり、ママは大急ぎで夕食の支度を始めた。
 
                                                  つづく

 

10月21日、最初に孵ったヒナは、こんなに大きく育ちました。

もう1個の卵も10月19日早朝、抜け殻が下に落ちていたが、様子がどうも変だ死産?かもしれない。

すぐ近くでカメラを向けても平気な顔をしているが、触ろうとすると羽を広げて威嚇する。

昨夜、またもや 襲来した台風23号の暴風雨で巣ごと飛ばされないかと、深夜まで見守っていたが,どうやら無事のようだ 一安心。

命名ーーー チビタロウ

 今年はどうなっているんだろうね、またあの恐ろしい台風がやって来た。朝から土砂降りの雨で、アタシぁーヒナを守るため、一日中外へも出られず、食べ盛りのチビタロウはヒィーヒィー泣くし、おまけに名無しの下の子は未熟児で育つかどうか心配だというのに、頼りの鳩吉さんはとうとう帰って来なかった。
 
 母親と云うものがこんなに大変なものだとはおもわなかったよ。男もちったぁ子育てを手伝ったらどうなんだ!惚れた弱みもあるが鳩吉の奴は浮気性なのかな。

 テレビは一日中台風のニュースばかり、パパの話だと今度の台風も超大型とかで各地に大変大きな被害があり、何十人もの人間が亡くなったり行方不明とのことだ。アタシとチビタロウが無事だったことに感謝するよ。

 そう云えば山のクマさんも、今年は大災難だそうだね。各地で山のドングリの木が枯れて、食べ物が無くなり、おまけに度重なる台風で僅かな木の実が落ちてしまい、冬眠が出来ないため止むを得ず人間が住む街までやって来たら、鉄砲でドスンとやられてしまう。
 人間という奴は勝手なもんだね、地球は人間だけのものだと思って居やがる。
 
 その点アタシ達は人間と共存すると云う知恵があり、仲良くやっているよ。人間はアタシ達のことを平和のシンボルだと言っているが、それなら糞害だ糞害だと騒がないでほしいね。

 パパ ーー 「ママ やっとパソコンが元通りに治ったよ、あー大変だった」
 ママ ーー 「それは良かったですね、又買い換えるのかとびくびくしていましたよ」

 なんでもパソコンの心臓部であるハードディスクとやらが異常電圧で壊れ、そのハードディスクを取り替えたため、なにやら難しい沢山のソフトやらの再インストールが必要で、またその作業中にウイルスとやら恐ろしい病気がパソコンに入ってきたと、パパは頭を抱え込んで暫くの間すこぶる機嫌が悪かった。

 あの年で良く根気が続くものだと感心したね。何であんなに夢中になるのかな、でもパソコンが無ければインターネットが出来ず、アタシが知りたかった子育てのことも調べてくれなかったと思うよ。

 パパはアタシのためにパソコンをやっているのではないようだ。インターネットで自分のホームページを作って山に登るたびにその時のことを書いたり写真を載せることが唯一の趣味のようだ。
 ついでに今回はアタシの子育てまで、逐一写真に撮って載せている。別に迷惑とも思っちゃーいませんが、一度見てみたいもんだねぇ。でもウイルスとやら恐ろしい病気だけはチビタロウに染さないでほしいわ。

 パパは自分のホームページを、他人に見てもらいたくてうずうずしているようだ。これまたインターネットの電子メールとやらで所かまわず送りつけて・・・迷惑に思っている人もいるかも。

 今日は台風一過とでも言うのか、朝から気持ちの良い秋晴れの天気、昨日はヒナもずぶ濡れで、食事もろくに摂っていなかったため、パンやらポップコーンをもらいに夙川公園まで何往復したことか、ヒナもおとなしくお留守番が出来るようになった。

                                                つづく


  

10月28日、九州旅行(開聞岳・阿蘇山・由布岳登山)から帰ってきたらチビタロウはこんなに大きくなって
いました。鳩吉も含め親子3羽の幸せそうな姿を見て安心したものの、もう1羽のヒナは見当たらず育たな
かったようです。


旅行前から気になっていたのだが、ヒナは何時も1羽でお留守番、夜も親達は巣には帰って来ません。何
かに襲われないかと心配してみるものの、巣立ち後の自立のためにあえてそうしているのだろう。
たまに餌をやりに2羽で帰って来ても直ぐに飛び立ってしまう。

他の鳥は、ヒナが小さいときから昆虫等の餌を口移しで与えているのに対し、鳩は大きくなっても親の胃で
消化した乳状の液体を与えている・・・新発見。


 何処へ行っていたのか、1週間ぶりにパパとママが帰って来た。
 
 何でも九州の山登りに行ってたそうだが、何のためにそんな遠い所まで行かなくちゃぁならないのか、
アタシには山登りそのものが理解出来ないね。

 お蔭様でパパのタバコの煙も、ママのアー・イーも聴かされなくて、静かな親子水入らずの生活が出来た
というもんだ。でも何だか寂しかったような気もしたね。またパパとママの観察でも始めるか。

 3時頃チビタロウに餌をやりに帰ってきたら、珍しくパパの友達が尋ねて来た。

 何でも高校時代の古い親友で、名古屋で脱サラの後自分で小さな会社をやっていたが、この不況で
会社が潰れ、今は自分が住んでいるマンションの管理人をやっているとのこと。名前は岡町とかいって
いた。

岡町ーー「久しぶりだねー、元気そうで何よりだ、年賀状では山のことばかり書いていたが今でも山に
      行っているのかい」

パパーー「うん、九州から今朝帰って来たばかりなんだ、熊本に女房の妹がいてそこをベースに鹿児島の
      開聞岳と熊本の阿蘇山・湯布院の由布岳に登って来たよ」

岡町ーー「なんでお金を使ってしんどいめをするのか、俺には理解できないなぁー、山登りってそんなに
      面白いかねー」

パパーー「何云ってんだ、俺が最初に山に登ったのは高校3年の時で、君と2人で槍ケ岳に登ったじゃぁ
      ないか。その後会社に入ってからも独身時代は北アルプスによく行ったもんだ」
      「君はその後名古屋に転勤になっちゃて・・・」

岡町ーー「槍ケ岳が最初で最後の山だよ、あんなしんどいことは二度とやりたくないね」
      

パパはもう真っ赤な顔をしているが、岡町はビールが終わり熱燗の手酌でぐいぐいやっている。

岡町ーー「そうそう、ヒマラヤにまで行ったと聞いたが、よっぽど暇なんだね、山しかすることがないのか」

パパーー「四十数年間、会社でこき使われていたんだ、定年後くらいは好きなことをやらしてもらうよ」

ママーー「私も他に何かすることを見つけなさいと言っているんですがねー・・・」

岡町ーー「こいつは昔から人の云うことを聞かないんだ、ちっとも変わっていないなぁー」

再開してまだ2時間も経っていないと云うのに、2人はもう喧嘩ごしである。パパは話題を変えようと・・・

パパーー「ところで会社を辞めて一番困っていることは何だと思う?」
      
岡町ーー「俺なんか自営業だったからなんにも感じないよ」

パパーー「名刺が無いってことよ、自分が自分であることを証明出来ないーーホテルに泊まる時とか
      職業を書かなくていけないとき 《無職》 と書くのには随分抵抗があるよ」

この時、テレビのニュースで民家が火災になり、75歳の無職○○さんが死亡したと伝えていた。
突然、パパが大きな声で・・・

パパーー「わざわざ人の名前の頭に《無職》と付けるなってんだ、テレビも新聞もけしからん」
      「75歳にもなれば誰だって無職に決まっているじゃぁないか、どうしてそんなに肩書きを付け
      たがるんだ」

ママーー「でも偉い人は元何々社長とか、元代議士とか付けるの普通じゃぁないのかしら」

岡町ーー「その点俺なんかは、元社長だからね」

パパーー「女はいいよなぁー、いくつになっても主婦○○さんでとおるから・・・」

もう外は真っ暗闇、チビタロウを巣に残し、アタシと鳩吉は夙川公園の塒(ねぐら)に帰って行くのであった。

                                                     つづく


                       巣立ち おめでとう!

10月30日、鳩子が巣の上からヴォーボとさかんに呼んでいると思ったら、いきなりチビタロウが巣の
前の枝に飛び移った。 普通ヒナは巣で羽ばたきの練習を重ねてから飛び立つものと思っていたが
巣が小さくて羽ばたき練習が出来なかったのだろうか。

チビタロウはなかなか餌をもらえない、鳩子が此処までお出でと少しづつ高い枝に上がって行く。

それにしても巣立ちが早すぎる、孵化してから未だ20日位しか経っていないのに。

巣立ちして3日目、チビタロウは古巣をすてて道路向かいの電線に留まっていた。鳩子と鳩吉が遠くで
呼んでいる。チビタロウは意を決したかのように大空へ飛んでいった。

鳩子、鳩吉、チビタロウ さようなら ! また帰っておいで。


それにしても子供を育てるってことは大変だね。アタシぁーこんなに痩せてしまったよ。
鳩吉の奴ときたらろくに餌も運んで来ないくせに、チビタロウの巣立ちのときだけは親父面をして・・・。

でも子育て中は、人間夫婦の観察が出来て、けっこう楽しかったよ。

パパさん タバコは止めたほうが良いよ。
ママさん 詩吟頑張ってね。

  バイバイ!

                                                      







 

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